概要
情報とは、コンピュータ・メモリに蓄えられたデータや断片的知識のようなものばかりではない。その本質は生命による「意味作用」であり、意味を表す記号同士の論理的関係や、メディアによる伝達作用はむしろ派生物にすぎない。言葉の意味はいかにして私の心から他者の心へ伝えられるのであろうか。意味内容が他者間をそっくり移動するなど本当に可能なのか。社会的コミュニケーションはいったいなぜ可能なのか。従来のシャノン・ウィーバーの単純化された情報モデルではもはやこの問いには答えることはできない。本書では、階層的自律コミュニケーションシステム(HACS)にもとづいて、「情報」そのものを根底から問い直すことから出発する。生命が、閉鎖的かつ自律的な「システム」であるとしてとらえ、その上で生命の「意味作用」を「情報」であると再認識した上で、生命/心/社会をめぐる情報現象を、統一的なシステム・モデルによって論ずるのである。
以上のような「情報からの思索」は、著者がコンピュータ研究やメディア評論を通じ、30余年にわたって考え続けたことを踏まえている。いわば著者の集大成といってもよい壮大な理論構築の試みである。
目次
序にかえて
第1章 情報/コミュニケーション/メディア
1.1三種類の情報
1.2階層的自律コミュニケーション・システム
1.3コミュニケーションとメディア
第2章 個人/組織の知識形成
2.1階層と世界算出
2.2ラディカル構成主義
2.3社会的組織の学習
第3章 ″人間=機械″複合系
3.1生命体と論理機械
3.2主観的記述と客観的記述
3.3三つのタイプのコンピュータ
第4章 総括と展望
4.1機械的組織の陥穽
4.2有機機械を求めて
著者紹介
西垣通(にしがき・とおる)
東京大学大学院情報学環教授。専攻は情報学、メディア論。
著書に『情報学的転回』(春秋社)、『ウェブ社会をどう生きるか』(岩波新書)、『基礎情報学』(NTT出版)など多数あり。
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