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生態系再生の新しい視点

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著者/訳者名

高村典子 編著

出版社 共立出版
発行年月日 2009年06月29日
ISBNコード 9784320056862
定価 ¥4,070(税込)

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概要

我々は自然の恵みなくしては生き続けることができない。しかし,この半世紀の間に地球上の自然生態系は大きく改変され,その結果,ほとんどの生態系で,生態系サービスが低下する傾向を示している(Millenium Ecosystem Assessment 2005)。自然の恵みを子々孫々と受け継いでいくために,劣化した生態系を再生させ,そして保全していくことは,我々の世代の責務になっている。自然の再生とその保全は,自然についての科学的な知識に基づいた適切なモニタリングとその評価,技術開発に加えて,人々の考え方や行動選択と自然生態系の関係を考察した上で,人と自然のより良い関係を見つけ,生態系が健全に維持されやすい社会的なしくみを創りだすことからはじめられなければならない。そのためには人という社会的な生き物への理解も必要である。

 私たちは皆,どこかの流域圏で暮らしている。流域は分水嶺に囲まれた集水域で,川の流れにそって自然が決めた水循環の空間単位である。流域圏では,下流地域が上流の土地利用の変化や開発の影響を大きく受けるため,治山治水,水質保全,土地利用の管理,産業などについて,相互理解の下に地域ごとの問題を共有して取り組まねばならない。湖は流域の末端に位置することが多いため,その生態系は流域の人間活動の影響を大きく受ける存在であり,その流域の人と自然のかかわりの状態を映し出す鏡とも喩えられる。湖沼の環境をよくすることは,地域の環境,そして地域社会をよくすることと同義である。

 湖沼は水資源,漁業資源,洪水調整,水質浄化機能など,多様な恵みをもたらしてくれるが,それゆえに,それを利用する人々の間で利害の対立が生じやすい。一方で,都市化や第一次産業の衰退が進む現代社会の日常のくらしでは,自然に無関心でも生活に支障をきたさないため,多くの人たちは自然の脅威と自然の恵みを体感しにくくなっている。必然的に,自然との精神的なつながりも希薄になっている。

 本書は,流域圏にくらす現代人なら,意識する,しないにかかわらず,おそらく誰もがその恩恵に与っている湖沼を対象として,まず,その生態系の特性を理解し,それを保全し,管理し,そして再生していくために有効となる評価手法や考え方を自然科学と人文社会科学が融合することで提案することを目的として書かれたものである。

目次

第1部 自然科学からみた湖沼評価の視点

第1章 湖沼という環境(高村典子)
1.1 人と湖沼のかかわり
  1.1.1 霞ヶ浦と人とのかかわりの変遷
1.2 湖沼生態系の特徴
  1.2.1 深い湖の環境とその復元力(resilience;レジリエンス)
  1.2.2 沖帯の食物網―細菌の機能についてのパラダイム変換
  1.2.3 沖帯の食物網の制御―ボトムアップとトップダウン
  1.2.4 食物網の要となる甲殻類動物プランクトン
  1.2.5 浅い湖の環境と2つのレジーム
  1.2.6 非線形な湖沼生態系の変化―レジーム・シフト
  1.2.7 生物のはたらきが関与するレジーム・シフト
  1.2.8 生態系エンジニア種とキーストーン種
  1.2.9 浅い湖沼の2つのレジーム間の変化プロセス
1.3 湖沼を効果的に蘇らせるために
  1.3.1 カタストロフィック・シフトに備える
  1.3.2 浅い湖沼生態系再生の実践
  1.3.3 霞ヶ浦再生への展望

第2章 流域の役割とその評価(福島武彦・松下文経)
2.1 汚染源としての考え方
  2.1.1 負荷予測手法と削減に向けての考え方
  2.1.2 面源からの負荷量推定の方法
2.2 流域での生態系ならびに住民生活の自立性
  2.2.1 流域での生態系への影響
  2.2.2 住民生活の自立性

第3章 湖沼沿岸域の生態系評価指標(西廣 淳)
3.1 沿岸域の生物多様性と生態系機能
  3.1.1 沿岸域とは
  3.1.2 沿岸域の生物多様性とその維持機構
  3.1.3 陸と水をつなぐ沿岸域の役割
  3.1.4 沿岸域の変化
3.2 指標を用いた評価の必要性
  3.2.1 DPSIRモデル
  3.2.2 生物多様性・生態系指標の開発
3.3 代表的な指標
  3.3.1 アンブレラ種
  3.3.2 外来種・侵略的外来種
  3.3.3 生物的健全性指標
3.4 日本における湖沼沿岸の生態系評価に向けて
  3.4.1 沿岸生態系に関するデータ
  3.4.2 既存データを用いた分析:霞ヶ浦の例

第4章 生態系機能から湖沼生態系を評価する(田中嘉成)
4.1 生態系の機能とサービス
4.2 湖の生態系機能と物質循環
4.3 生態系機能を担う生物の多様性
  4.3.1 生物の機能形質と生態系の機能
  4.3.2 形質ベース群集モデル
4.4 湖沼モデル
4.5 ミジンコ群集と湖沼の生態系機能

コラムI 漁業生産と水質浄化のディレンマ(花里孝幸)

第2部 人文社会科学を取り入れた新しい評価

第5章 かかわりの視点からの湖沼環境評価(二宮咲子・鬼頭秀一)
5.1 湖沼環境と人間の営みとのかかわり
5.2 人文・社会科学的な湖沼環境評価の視点
5.3 かかわりの視点からの湖沼環境評価の調査・分析の作業領域としての「行為」
5.4 人文・社会科学的なかかわりの視点からの湖沼環境評価の適用可能性の検討―事例研究を通じて―
  5.4.1 既往の環境評価および施策の現状と課題
  5.4.2 かかわりの視点からの湖沼環境評価の適応可能性
5.5 かかわりの視点からの湖沼環境評価の体系化に向けて

第6章 生態系ダイナミックスと人の選択ダイナミックスのカップリング(巌佐 庸・大野ゆかり)
6.1 生態系動態に経済的選択を取り込む古典的取り扱い
  6.1.1 どうして均衡が成立していると考えられるのか
6.2 行動変化のダイナミックス
  6.2.1 レプリケータダイナミックス
  6.2.2 確立的最適応答ダイナミックス
6.3 人々は公益に寄与したがる:公共財ゲーム
  6.3.1 公共財ゲーム
  6.3.2 最後通牒ゲーム
  6.3.3 人は評判を通じて協力する:間接互恵
6.4 湖水の水質改善問題:人の選択動態と生態系動態のカップリング
  6.4.1 社会的圧力
  6.4.2 生態系/社会系結合ダイナミックス
  6.4.3 正と負のフィードバック
  6.4.4 系の安定性は湖水の入れ換えと人々の態度変更のスピードで変わる
  6.4.5 予想外のパラメータ依存性
6.5 湖水の非線形:2つの履歴効果
  6.5.1 生態系ヒステリシス
  6.5.2 結合ダイナミックス
  6.5.3 湖水汚染度改善への社会的プロセスの効果
6.6 環境保護における集団間の対立
  6.6.1 集団の協力レベルの違い:コンフリクト
  6.6.2 集団間の同調性

コラムII 人間行動の本質からみた湖沼再生への提案(長谷川眞理子)

索引

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