歯学生のための摂食・嚥下リハビリテーション学
概要
●生きるうえで最も基本的な活動の「食べること」を扱う摂食・嚥下リハビリテーションは,医師・歯科医師・看護師・歯科衛生士・言語聴覚士・栄養士・理学療法士・作業療法士などの医療職に加え,福祉職,教職員,さらに家族の力によっても支えられる学際的な医療領域です.
●この学際的な領域での歯科の役割は大きく,「発達障害」「腫瘍の術後」「脳血管障害などによる中途障害」の人たちの摂食・嚥下リハビリテーションのほかに,近年では「誤嚥・窒息の予防」のための高齢者を対象としたものまで,カバーする領域はますます広がっています.
●本書は,この広汎で学際的な“摂食・嚥下リハビリテーション学”を初めて歯科の視点から整理したテキストです.歯学生や摂食・嚥下リハビリテーションに取り組む歯科関係者がより学びやすいよう,歯科の役割・特質に重点を置きながら,コンパクトにまとめ,簡明に解説しました.
目次
基礎編
1章 歯科医療における摂食・嚥下リハビリテーション(向井美惠)
2章 リハビリテーション総論(藤谷順子)
1.リハビリテーションとは
2.リハビリテーション医学における障害の捉え方
3.リハビリテーションにおけるADL,QOLの向上
3章 摂食・嚥下のメカニズム
1.摂食・嚥下機能を支える形態と制御する神経機構
1 摂食・嚥下にかかわる構造(解剖)(阿部伸一,井出吉信)
1.口腔の構造 2.咽頭の構造 3.喉頭の構造 4.食道の構造
2 摂食・嚥下にかかわる機能(生理)(山田好秋)
1.口腔機能 2.脳機能 3.感覚機能 4.運動機能 5.本能・情動 6.姿勢制御
2.摂食・嚥下の過程(井上 誠)
1 食物の認知
2 食塊形成
3 嚥下
1.口腔期 2.咽頭期 3.食道期
4 プロセスモデル
4章 摂食・嚥下を支える機能
1.体性感覚(井上 誠)
2.嗅覚・味覚(伊藤加代子)
1 嗅覚
1.嗅覚の種類 2.嗅覚の受容機構 3.嗅覚障害
2 味覚
1.味覚の種類 2.味覚の受容機構 3.味覚障害
3.唾液分泌(伊藤加代子)
1 唾液の分泌
2 唾液の機能
3 唾液分泌量
4.咽頭反射・咳反射(井上 誠)
1 咽頭反射
2 咳反射
5.呼吸(井上 誠)
6.発声(井上 誠)
5章 ライフサイクルと摂食・嚥下障害
1.発達期の機能獲得と摂食・嚥下障害
1 摂食・嚥下機能の発達(内海明美)
1.吸啜から離乳への移行 2.経口摂取準備期 3.嚥下機能獲得期 4.捕食機能獲得期 5.押しつぶし機能獲得期 6.すりつぶし機能獲得期 7.自食準備期 8.手づかみ食べ機能獲得期 9.食具食べ機能獲得期
2 中枢神経障害,末梢神経障害,筋障害(大岡貴史,向井美惠)
1.中枢神経・末梢神経障害 2.筋障害
3 解剖学的な構造異常(村田尚道,向井美惠)
1.唇顎口蓋裂 2.小顎症 3.歯列狭窄 4.舌小帯付着異常(舌小帯強直症) 5.先天性食道閉鎖症 6.多数歯欠損(無歯症) 7.歯肉増殖症
4 精神・心理的問題(弘中祥司)
2.成人期の摂食・嚥下障害
1 脳血管障害(石田 瞭)
1.疾患の概要 2.球麻痺と仮性球麻痺 3.脳血管障害のリハビリテーション
2 神経・筋疾患(ALS,筋ジストロフィー等)(大塚義顕)
1.Parkinson病(PD) 2.多発性硬化症(MS) 3.筋萎縮性側索硬化症(ALS) 4.重症筋無力症(MG) 5.筋ジストロフィー(MD) 6.多発性筋炎(PM)
3 頭頸部癌術後(宇山理紗,高橋浩二)
1.頭頸部癌の治療後に後遺する摂食・嚥下障害の特徴 2.頭頸部癌の原発部位別の摂食・嚥下障害の特徴
4 精神疾患・精神障害(村田尚道,向井美惠)
1.統合失調症患者が抱える摂食・嚥下障害 2.向精神剤による影響
3.老年期の機能衰退と摂食・嚥下障害(石川健太郎,向井美惠)
1 加齢による摂食・嚥下機能衰退
1.歯の喪失 2.口腔粘膜の変化 3.咽頭・喉頭の変化 4.咀嚼筋・顎関節の変化 5.口輪筋の筋力低下 6.唾液分泌量の低下 7.味覚・嗅覚の変化 8.呼吸・循環機能の低下
2 高次脳機能障害
臨床編I 障害の評価と対処法
1章 摂食・嚥下障害の評価
1.医療面接(問診)・食事場面の観察(戸原 玄,植松 宏)
1 医療面接(問診)
1.原疾患などの把握 2.栄養摂取方法 3.主訴の聞き取り
2 食事場面の観察
2.口腔運動・感覚機能検査(戸原 玄)
1 運動・感覚検査を行う前に
2 上位および下位運動ニューロン障害,錐体外路障害
3 球麻痺と仮性球麻痺
4 筋の廃用
5 認知症
6 神経原性疾患
7 口腔咽頭腫瘍術後
8 加齢
9 顔面の観察
1.随意運動 2.反射 3.感覚
10 顎の観察
1.随意運動 2.下顎張反射
11 舌の観察
1.随意運動 2.感覚
12 軟口蓋・咽頭部の観察
1.随意運動 2.感覚・反射
3.スクリーニング検査
1 RSST(repetitive saliva swallowing test)(戸原 玄)
1.RSSTの方法 2.RSST時の嚥下動態 3.RSSTの特徴
2 水飲みテスト,改訂水飲みテスト(戸原 玄)
1.水飲みテストおよび改訂水飲みテストの背景 2.水飲みテスト 3.改訂水飲みテスト 4.水飲みテストおよび改訂水飲みテストの意義
3 フードテスト(段階的フードテスト)(弘中祥司)
1.概要 2.段階的フードテストの方法
4 咳テスト(戸原 玄)
1.咳テストの背景 2.咳テストの方法
5 頸部聴診(高橋浩二)
1.頸部聴診法の概要 2.頸部聴診に用いる器具,試料 3.頸部聴診の手技 4.頸部聴診による判定
2章 摂食・嚥下関連機能のアセスメント
1.呼吸アセスメント(宇山理紗,高橋浩二)
1 視診
2 機器を用いて行う検査
1.肺野の聴診 2.胸部画像診断 3.呼吸機能検査 4.血液ガス分析 5.パルスオキシメータ
2.栄養アセスメント(宇山理紗,高橋浩二)
1 栄養管理の必要性
2 栄養スクリーニング
3 栄養アセスメント
1.主観的包括的評価(SGA;subjective global assessment) 2.客観的データ評価(ODA;objective data assessment)
4 必要栄養量の決定
1.エネルギー必要量 2.脂質必要量 3.タンパク質必要量 4.水分必要量
3.言語機能のアセスメント(武井良子,高橋浩二)
1 摂食・嚥下障害とかかわりの深い言語障害
1.構音障害 2.音声障害
2 摂食・嚥下障害と関連する言語機能検査
1.会話明瞭度検査 2.声の検査 3.構音検査 4.鼻咽腔閉鎖機能検査 5.Oral diadochokinesis
4.嚥下姿勢のアセスメント(高橋浩二)
1 基本的な摂食・嚥下時の姿勢
2 摂食・嚥下障害患者に適用する姿勢とその評価
1.頭部屈曲姿勢・頸部屈曲姿勢・頭頸部複合屈曲姿勢 2.頭部伸展姿勢・頸部伸展姿勢・頭頸部複合伸展姿勢 3.頸部回旋姿勢 4.頸部健側傾斜
3章 摂食・嚥下障害の検査・診断と治療計画(植田耕一郎)
1.診断のための検査法
1 嚥下造影(VF:videofluoroscopic examination of swallowing)
1.検査装置 2.造影剤 3.検査手技 4.摂食・嚥下障害の診断
2 嚥下内視鏡検査(VE:videoendoscopic evaluation of swallowing)
1.検査装置・検査手技 2.咽頭期障害の診断例
3 筋電図検査(EMG:electromyography)
1.検査装置 2.診断例
4 超音波画像診断(echo,US:ultrasonography)
1.測定(検査手技) 2.診断例
5 その他の装置診断法
1.嚥下圧診断 2.シンチグラム
2.治療計画の立て方
1 治療計画を立てるための基本的な要素
1.治療的アプローチ 2.代償的アプローチ 3.環境改善的アプローチ 4.心理的支援
2 リハビリテーションとしての治療計画
1.治療的アプローチ 2.代償的アプローチ 3.環境改善的アプローチ 4.心理的支援
4章 摂食・嚥下機能訓練
1.間接訓練(基礎訓練)(林佐智代,野本たかと)
1 先行期(認知期)の障害
1.異常感覚除去(脱感作療法) 2.ストレッチ運動
2 咀嚼期(準備期)の障害
1.筋機能訓練 2.咀嚼訓練 3.構音訓練
3 口腔期の障害
1.構音訓練
4 咽頭期の障害
1.嚥下促通訓練 2.声門閉鎖訓練
5 食道開大不全への訓練
2.直接訓練(弘中祥司)
1 概要
2 訓練法の選択
1.食物形態(物性)の選択 2.嚥下訓練 3.捕食訓練 4.咀嚼訓練 5.水分摂取訓練 6.自食のための指導訓練
3.呼吸訓練(綾野理加,高橋浩二)
1 呼吸の基礎知識
1.呼吸運動 2.咳反射とは
2 呼吸訓練
1.各種呼吸訓練法
コラム;排痰
臨床編II 摂食・嚥下障害に対する歯科的対応
1章 口腔領域からの摂食・嚥下障害への対応
1.機能的補綴的対応
1 小児の装置〔口蓋床(Hotz床),軟口蓋挙上装置(PLP)〕(小森 成)
1.出生直後から用いられる装置 2.口蓋床を用いた口腔管理 3.その他の装置
2 咀嚼機能・嚥下機能に着眼した補綴装置(菊谷 武)
1.口唇閉鎖を補う補綴装置 2.咬合を維持する補綴装置 3.咽頭への移送を補助する装置(人工舌床)
3 PAP,PLP(菊谷 武)
1.PAP(palatal augmentation prosthesis;舌接触補助床)とは 2.PAPのメカニズム 3.PAPの作製方法 4.PLP(palatal lift prosthesis;軟口蓋挙上装置)
4 Swalloaid(菊谷 武)
2.歯科口腔外科的対応
1 再建手術(鄭 漢忠)
1.はじめに 2.口腔癌患者の再建手術 3.その他の外科的対応 4.おわりに
2 顎顔面補綴(小野高裕,堀 一浩)
1.上顎腫瘍術後患者に対する顎補綴治療 2.下顎・舌・口底腫瘍術後患者に対する顎補綴治療
2章 口腔ケア・栄養指導
1.口腔ケアの位置づけと職種連携下での提供(柿木保明)
1 口腔ケアの位置づけ
2 チームアプローチと口腔ケア
2.障害児への対応(猪狩和子)
1 器質的要因とその対応
2 機能的要因とその対応
3 環境的要因とその対応
3.高齢者への対応(柿木保明)
1 高齢者における口腔内の特徴
1.加齢による口腔内の変化 2.義歯や薬剤などの影響
2 口腔ケアの必要性
3 口腔観察のポイント
4 総義歯の常時装着の必要性
4.患者の状態にあわせた口腔ケア(柿木保明)
1 意識障害を有する患者の口腔ケア
2 気管内挿管を行っている患者の口腔ケア
3 経管栄養を行っている患者の口腔ケア
4 要介護高齢者の口腔ケア
1.高齢者の咀嚼機能に着目した対応 2.義歯を使用している場合の対応
5.口腔乾燥症に対する口腔ケア(柿木保明)
1 唾液分泌と口腔ケア
2 口腔粘膜の保湿
3 口腔機能障害への対応
4 超音波歯ブラシによる口腔乾燥改善
6.NST(岩佐康行)
1 NSTとは
2 NSTの対象患者
3 NSTを構成するメンバー
4 NSTによる栄養管理の流れ
1.栄養スクリーニング 2.栄養アセスメント 3.栄養ケアプラン 4.実施とモニタリング 評価
5 摂食・嚥下リハビリテーションとNST
6 経管栄養法における問題点と対応
7 NSTにおける歯科の役割と課題
臨床編III チームアプローチと訪問歯科診療
1章 摂食・嚥下リハビリテーションのチームアプローチ(石田 瞭)
1.病院歯科(大学病院を含む)
2.訪問歯科診療
2章 訪問歯科診療における摂食・嚥下障害への対応(千木良あき子)
1.訪問歯科診療における摂食機能療法の考え方
2.訪問歯科診療の捉え方
1 在宅・施設の別,主たる依頼者による違い
2 どのような立場での訪問歯科診療か?
3.訪問歯科診療の基本
1 医療・ケアチームとしての自覚
2 連携の重要性と他職種との関係構築
4.訪問先ごとにみた摂食・嚥下障害対応の概略
1 在宅訪問の場合
2 施設・病院訪問の場合
5.実際の訪問の流れ
1 在宅への訪問
2 施設・病院への訪問
3 実施可能な治療・対応を把握して対処するためのポイント
6.まとめ
臨床編IV 障害への対応例(症例)
1章 障害への対応例
1.脳血管障害による摂食・嚥下障害への対応例(植田耕一郎)
1 急性期から回復期への対応例
2 家庭での食事自立を目的とした片麻痺患者への対応例
3 外来脳血管障害患者に対する診療室での対応例
2.神経・筋疾患における摂食・嚥下障害の対応例(大瀧祥子)
1 重症筋無力症(myasthenia gravis;MG)
2 筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic leteral sclerosis;ALS)
3 Parkinson病
4 多系統萎縮症(multiple system atrophy;MSA)
3.頭頸部癌術後による摂食・嚥下障害患者への対応例(高橋浩二)
1 症例1 中咽頭癌
2 症例2 喉頭癌
4.高齢摂食・嚥下障害患者への対応例(渡邊 裕)
1 症例 誤嚥性肺炎
5.発達障害による摂食・嚥下障害への対応例(木下憲治)
1 症例 脳梁欠損・点頭てんかん・脳性麻痺
文献
索引
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