概要
生物が餌場を争ってできる縄張り,コンビニが顧客を囲い込んでできる商圏,結晶が核から成長してできる単結晶領域,河川が雨水を受け持つ流域,救急病院や公立図書館などの公共施設がサービスを受け持つ地区など,いくつかの個体が勢力を競い合ったり分担し合ったりして空間を分け合う姿は,身の回りのいたるところで観察できる。この姿を,「なわばり」を表す空間分割図形として捉えることによって,自然界や人間社会における多くの現象が統一的視点から解析できるとともに,さまざまなものづくりに役立つことを紹介する。
これは,数学を道具に用いて現実の諸問題を解決する方法論の確立を目指す「数理工学」という学問の一例でもある。数理工学では,現実世界の複雑な現象からその中心部分を取り出して単純化し,数学の言葉で記述して,数学という道具が使える舞台に乗せる。この作業は,現象の数理モデリングとよばれる。これによって,多様な現象に潜む共通の構造を浮き彫りにでき,それらを統一的に眺めることのできる汎用的な手法を手に入れることができる。本書は,「なわばり」というものの見方を手がかりとして,身の回りの現象を抽象化する数理モデリングのおもしろさと有用性を,わかりやすく解説した。
目次
第1章 なわばりとボロノイ図
1.1 ボロノイ図とは
1.2 2次元ボロノイ図の性質
1.3 地図の上でのボロノイ図の解釈
1.4 再び2次元ボロノイ図の性質について
1.5 名称と参考文献について
第2章 自然界に現れるボロノイ図
2.1 生物のなわばり
2.2 アリジゴクの巣
2.3 イソギンチャクのなわばり
2.4 結晶の成長
2.5 なぜかボロノイ図?
2.6 6角形は必然
第3章 ボロノイ図の作り方1 基本算法
3.1 逐次添加法
3.2 最近点の探索
3.3 出発点の見つけ方
3.4 母点の添加の順序
3.5 逐次添加法の平均計算時間
第4章 ボロノイ図の作り方2 プログラミング
4.1 なぜ難しいのか
4.2 誤差を直視する勇気を
4.3 頼みの綱は組合せ位相構造
4.4 位相優先プログラムの振舞い
4.5 その他の算法について
第5章 ドロネー図と補間・メッシュ生成
5.1 ドロネー図
5.2 最小角最大性
5.3 ランダムな観測点からの補間
5.4 有限要素法のためのメッシュ生成
5.5 自然近傍補間
第6章 隙間の構造化と施設の最適配置
6.1 新しく公共施設を作るなら
6.2 最大空円とボロノイ図
6.3 花見の席取り
6.4 気の短い人のための画像伝達
6.5 楕円への拡張
6.7 新店舗の最適出店位置
6.8 泡のシミュレーションとバブルメッシュ
第7章 ボロノイ図のさまざまなバリエーション
7.1 図形が作る勢力圏
7.2 線分ボロノイ図
7.3 どの緑地へ避難すべきか
7.4 一般図形のボロノイ辺
7.5 一般図形ボロノイ図の近似構成法
7.6 図形の中心軸
7.7 障害物回避経路
第8章 ボロノイ図の一般化
8.1 高階ボロノイ図
8.2 最遠点ボロノイ図と最小包含円
8.3 距離の一般化
第9章 アレンジメントとボロノイ図
9.1 回転放物面と接平面
9.2 ボロノイ図とアレンジメント
9.3 ドロネー図と3次元凸包
9.4 最小角最大性の証明
9.5 視線単調性
9.6 ラゲールボロノイ図とアレンジメント
9.7 距離関数曲面によるアレンジメント
第10章 ボロノイ図の認識問題
10.1 認識問題の分類
10.2 幾何的認識問題. 退化のない場合
10.3 幾何的認識問題. 退化のある場合
10.4 ボロノイ図による近似
10.5 組合せ的認識問題
第11章 近さに基づく諸グラフ
11.1 隣りとは
11.2 ガブリエルグラフ
11.3 相対近傍グラフ
11.4 最近傍グラフ
11.5 最小全域木
第12章 ボロノイ図の諸応用
12.1 真円度の評価
12.2 バブル立体の表示
12.3 地球規模の勢力圏
12.4 ゆがんだ格子の上の差分法
12.5 スポーツにおけるチームワークの評価
参考文献
索 引
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